新連載
 その54     アラブの習慣と文化
     11 偶像崇拝禁止のイスラム教 


               可愛らしい人形のおみやげも密かに処分される 

 アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバーンによって、シルクロードの代表的な古代仏教遺跡バーミヤンの大仏が破壊され、世界各地で非難の声が上がっている。あまりの反響の大きさにそれ以上の強行には及んでいないようであるが、状況によっては、さらに他のガンダーラ仏など世界的な文化財の破壊にも波及する恐れがある。
 
 アフガニスタンはアジアの一部であるが、99%の人口がイスラム教徒の国である。古代ペルシャに始まり、中央アジアの遊牧民が征服してきたが、七世紀末からイスラム化が進んだ。1919年に王国として独立したが、イスラム勢力が強くなって内戦が絶えない。タリバーンは、イスラム教のスンニ派に属する神学生武装グループの最高指導者ムハマド・オマル氏が結成したと言われる。
 イスラム教は、基本的に偶像崇拝を禁止している。モハメッドは、メッカのカーバ神殿を征服したときに、神殿の中にあった偶像を破壊した。このとき以来イスラム教では、偶像は信仰しなくなったと言われる。イスラム教では、モハメッド以外を神として認めず、代わりになる偶像も崇拝の対象として認めない。タリバーン勢力は、偶像崇拝を禁じているこのイスラムの教えに従って仏像を破壊したのである。
 
 しかし、基本的には、「イスラム教は、異なる宗教や文化を尊重しており、平和を求める宗教」と言われる。最初にイスラム教徒がアフガニスタンに入ったときも、仏像を崇拝していた仏教徒は保護されており、仏像も破壊はしなかった。エジプトも、イスラム教徒が多いが、ファラオの像など多数の像は破壊されていない。イスラム教には、偶像崇拝はしないけれども、他の宗教の偶像を破壊まではしていないのである。
 過激派と呼ばれているタリバーン勢力が、世界的文化遺産バーミヤン石仏を破壊したのは、インドのヒンズー教徒によるモスクの破壊やイスラエルにおけるイスラム寺院(モスク)の破壊などに対する報復的な意味があるとも言われる。世界から注目を集めようとする考え方で破壊行動に出たとも言われる。世界的に貴重な遺跡の破壊も、本当の理由はこの辺の感情的な問題にあるのかもしれない。
 
 アフガニスタンには、バーミヤンの石仏のほかにもガンダーラ仏など世界的な文化財が多数ある。バーミヤンの石仏やガンダーラ仏は、単なる偶像崇拝の対象ではなく、人類の歴史的遺産である。イスラム教を信ずる人たちは、その歴史的背景などから、穏健派から過激派まで幅広いが、インドネシアの味の素事件などの例があるように、我々にとっては思わぬ方向へ展開しないよう、ただ、無茶をしないで欲しいと願うばかりである。
 
 二十余年前、最初にサウジアラビアを訪問したときは、テレビ放送が導入開始されて幾らも経っていなかった。当時は、テレビに映る人の顔さえ、これを偶像とみなして、忌み嫌い、反対の声を上げる人もいたほどである。テレビでは音楽のように微妙に流れるコーランの響きとともに、美しいモスクの映像が放映されるだけであった。
 我々がなにげなく飾るこけしや可愛らしい人形さえも、イスラム教徒は偶像として判断し、これを事務所や自宅に飾ることは決してしない。だから殴米人に喜ばれる博多人形やこけしなども、日本を訪問したイスラム教徒へのお土産としては、絶対に選んではならない。彼等は、贈り主に感謝はするだろうがイスラム教に関する贈り主の無知に失望するだろう。また、可愛らしいこけしや高価な日本人形さえも、返すに返されず、帰国する前にどこかで密かに処分される運命にあるのである。 


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