読書日記

田中さんの
ノーベル賞受賞を機に
「独創性の世界」を考える

日本能率協会
人材教育 平成15年2月号  


ノーベル賞10人の日本人
中公新書ラクレ
読売新聞編集局

天才は冬に生まれる
光文社新書
中田力

天才の世界
小学館
湯川秀樹


島津製作所のサラリーマンエンジニア田中耕一さんがノーベル賞を受賞された。テレビの画面から伝わってくる田中さんの癒し系の雰囲気が国民に大人気である。お陰でノーベル賞を受賞するような天才の世界も身近に感じられるようになった気がする。

 「ノーベル賞10人の日本人」は、戦後すぐの物理学賞の湯川さんから昨年の化学賞の野依さんまでの10人の小伝と肉声を通して、「独創性とは何か」を生々しく伝えようとしている。特に、田中さんと同じように民間企業の神戸工業(後に富士通に吸収)や東京通信工業(ソニーの前進)の研究員であった江崎玲於奈さんの項では、後により良い研究環境を求めて転身したIBM研究所でのエピソードを通して、研究に対するひたむきな忠誠心、独創的な研究にかける情熱が語られている。そして、「あらゆる人間は、固有の遺伝情報、つまり何がしかの才能を持って生まれてくる。21世紀の教育は、この天分の育成がきわめて大切」という教育改革国民会議で議長を務めた時の見解を紹介している。

 湯川さんは、ほとんどすべての人が何かの形で創造性を発揮する可能性を持っているという前提のもとに「同定の理論」を一般化したが、「天才の世界」では、天才と呼ばれている人達、「弘法太子、啄木、ゴーゴリー、ニュートン」の4人のケース・ヒストリーを材料として、「独創性」の本質を明らかにしようとしている。特に4人に共通するのは、生涯のある時期に、やや異常な精神状態になったことであり、それは外から見て異常かどうかということではなく、当人の集中的な努力が異常なまで強烈となり、ある期間持続されたと言う点が重要であり、それが一番はっきりしているのがニュートンと啄木の場合であると述べている。 

「天才は冬に生まれる」では、脳神経学の臨床医であるとともに脳科学の最先端に立つ著者が、「ニュートン、コペルニクス、アインシュタイン、ハイゼンベルグ、ラマスジャン、ノイマン、ホーキング」の7人の生涯をエピソードとともに紹介し、現代科学のエッセンセンスを復習しながら、「独創性」の源泉はどこにあるかを探っている。そして、「特に誕生日を意識して代表的な天才を選んだわけではないのに、冬でなければ天才が生まれないわけではないのに、なぜか寒い時期に生まれた天才が多い」として、能の形成過程で「温度環境」が大きく影響するという独自の「能の渦理論」を紹介している。能の形態がどのように作り上げられるかは、能の自己形成法則により、それを支配するのが熱対流法則であり、この過程で「才能」が決定されるというのである。ただ、私はまだ田中さんをはじめ日本のノーベル賞受賞者の誕生日は確認していないが・・・。


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