日本版6シグマ
定着が難しい理由

  日本の「QCサークル」を立ちあげたのは、製造部門の女子社員が中心でした。21世紀になって、日本はアメリカの「6シグマ」に学ぼうとしていますが、今度は若いホワイトカラーが実力を発揮する番のようです。
 現在の若い世代は、この力を十分持ち合わせているように思います。彼等は、失敗の経験もないので動機づけをきっちりすれば動きが速いと思います。 
 それには、やはり経営者の描く将来への夢と希望が必要です。事業に対する展望です。彼等が経営者の描く夢を共有できれば、大きなボトムアップ力を発揮っすることが期待されます。
 彼等はITを使う技術、多様な情報の収集と処理の技術も十分心得ています。中高年齢層よりも、敏感に世の中の動きを察知する力もあります。「日本版6シグマ」のための「ST(ソリューション・テクノロジー)」を使いこなすセンスと力に期待するところ大です。


日本企業は
トップダウンの経営が難しい

 これまでの日本起業の多くは、タテ社会組織で、その組織に所属するメンバーの能力や年齢が上下に連続して、数珠繋ぎになっている。日本企業で順番に階級を上り詰めて、組織のトップマネジメントになったとしても、そのリーダーのすぐ下や周辺には、入社当時一緒に仕事をした先輩や同期のメンバーがたくさんいる。
 そのために、企業経営者とはいえ、強い指示命令を出し、リーダーシップをとれる構造になっていない。大きな変更を伴う「改革案」を出せば、あるときは反発を受け、あるときは無視され、効果を発揮できないで終わる。
 強い指示を出せるのは、個性のある、ある意味では癖のある者が経営トップになったときのみである。順番に階級を上り詰めて、日本企業の組織のリーダーになった場合は、強力なトップダウンで経営は難しい。

 米国の企業では、MBA取得者が、将来経営を担当することを前提に入社してしかるべき部門の仕事をし、更に経営に関する能力を高め企業の経営者となる。経営者層と従業員層の間に、最初から経営に関する姿勢や考え方に大きな相違があるため、トップダウンの経営が可能である。
 米国の企業と風土の異なる日本の企業においてGEでジャック・ウエルチが成功したシックスシグマを、そのまま日本企業へ適用しようとしても難しい理由がここにある。 


松下グループは
典型的なボトムアップ経営

 日本企業のタテ社会構造では、大方のメンバーの考え方が非常に似ており、ボトムアップで出された提案を採用し、経営を進めて行けば部下から反発を食うことはなかった。この社会構造は、右肩上がりの成長期には、"行け行けどんどん"で成功し、元気が良かった。
 事業部制の特徴を生かして発展してきた松下電器グループは、この高度成長期においては、各事業部が互いに開発力を競い合って成長し、大きな成功を収めた。典型的なボトムアップの経営であった。
 そのために同じような製品を複数の事業部で開発し、販売されることがあり、販売ルートで同じブランドが競合する矛盾さえ発生した。
 バブルで一時技術者が不足したとき、同じ企業グループの中で競争させたため、同じような製品開発に二重に技術者が存在し、"無駄な投資をして"という非難もあったが放置された。ボトムアップで競合するシステムは、右肩上がりの状況では問題とされなかったのである。 
 しかし、21世紀に入って、二重投資された人材が余剰人員となって、リストラ(早期退職制度の実施)の対象となった。その上、関連会社が子会社化されて、トップダウンが徹底しやすい組織体制に変更する方針を打ち出された。


日産自動車
ゴーン社長による
トップンダウン経営が成功した理由

 日産自動車においては、ゴーン社長のトップダウンのリーダーシップで経営改革を成功させた。日本企業でトップダウンが受け入れられ、うまく機能するのは、社長とそれ以下の組織に上下関係としてのギャップが大きくある場合である。
 もし、従来の組織の中で日本人社長が、ゴーン社長のように同じ方針を出していたら、組織はしらけ、機能を発揮しないと思われる。工場閉鎖や下請企業の大幅削減は、従来路線の日本人社長で行っていたら、"人間の機微を理解しない鬼や悪魔"として非難ごうごうで終わったであろう。
 日産自動車の元日本人トップマネジメントは、日本におけるこのタテ社会組織の特徴や問題点を十分理解していたために、自分では改革するのをやめてフランス人ゴーン社長の力を利用せざるを得なかったのである。この意味では、日産自動車の旧経営陣は、正しい選択をしたといえる。


日本版6シグマ
ボトムアップとトップダウンを組み合わせた
新しい組織的問題解決手法だが!

 タテ社会組織で、ボトムアップの風土が染み付いている日本の企業において、5年や10年で組織体質を変えることは簡単ではない。
 特に製造業では、現在中核を占める中間管理層の多くは、TQCやTQMで一度はアメリカの品質を凌駕したという、ボトムアップ型経営の成功体験があり、その変革は更に難しい。
 アメリカの「6シグマ」は、トップダウン組織風土の中で成功している。しかし、トップダウンがなじまない組織風土の日本企業にそのまま取り入れても、定着させることはたやすいことではない。

 ベルヒュード研究会は、「日本型6シグマ」の実践的なツールとして、研究会独自の組織的問題解決技法「M5型問題解決技法」をベースに「BSTプログラム」を体系化した。
 「BSTプログラム」は、「GE版6シグマ」の「DMAIC」という「Critical Thinking Flow」に代る「W型問題解決フロー」に沿って、各部門が「問題意識の共有化→現状把握→基本的課題の設定→最適アプローチ策の検討→実行計画の作成」というステップを踏んで、自からの業務の革新に取り組む「日本版6シグマ」のための「OS:オペレーションソフト」である。
 「日本版6シグマ」は、経営トップの「6シグマ方針」のもと、現場がこの「BSTプログラム」を武器として、「お客の声:VOC」の本質を探り、「内部要因:CTQ」を絞り込み、「6シグマ課題:SSP」を設定し、これをスピーディに解決することで、「無駄なコスト、機会損失:COPQ」を極小にするという現場のボトムアップ力に依存したトップ主導型の問題解決活動である。
 
 現実的に、「BSTプログラム」の実践によって、経営と現場の一体感が醸成され、一体感が深まった時、現場のボトムアップ力はさらに大きなものになっている。
 GE社のジャック・ウエルチが「6シグマ」の先頭に立ち、「学習する組織」づくりをめざしたように、この「BSTプログラム」をトップダウンで「QC7つ道具」なみに簡潔な自社版手法に仕上げるとともに、現場が進んで活用できる教育的環境をつくることにこそ、「日本版6シグマ」の普及の鍵があるということではないだろうか。


back