中小製造業における
日本版6シグマ活動について

ー人材育成の視点からー

6Sigma Activities in Japanies Small Manufactuaring Companies

 


要約

 中小製造業の多くのトップからよく、「我が社の社員は上からの指示待ち人間が多くて困る」という声を聞く。取引先からの品質やコスト要求が一段と厳しくなる中で生き残っていくためには、社員一人一人が会社の方針や目標をよく理解し、その実現のために、それぞれの持ち場で課題を設定し、問題解決的に取り組んでくれる頼りになる組織をつくっていくことが一番の近道。
 そこでグローバルな競争の中で、ものづくりに強い日本企業の復活をめざして、個々の企業で経営トップと社員が一体となって課題解決に取り組む活動を、アメリカのモトローラやGEの「6シグマ」に対して、「日本版6シグマ」と命名した。

 ここでは、中小製造業A社における「日本版6シグマ活動」について、その活動の中心的な役割を果たす「マスターブラックベルトクラスの「人材の育成」の問題に絞って、その具体的な取り組み例を紹介することとしたい。

1経営トップと幹部職層の一体化

 A社は「地域の発展に貢献する」を経営理念とする臨海工業地帯の大手メーカー数社を中心に部品や部材の外に、組み立て、輸送等のサービスを提供する中規模企業である。大手の下請け的な立場にあるが、先代の社長時代からトップ自らの営業力によって取引規模を拡大してきた。
 しかし、大手企業を取り巻く経済環境の悪化とともにA社に対する品質、コスト、安全面等からの要求は一段と厳しくなり、また地域を越えて競合会社の進出も顕著になってきている。
 そこで社長は、トップの営業力だけでは、対応が困難な時代になってきたと実感し、これまでの指示命令、管理型のマネジメントスタイルを反省し、少なくとも幹部職は、自分の分身として、現場の責任者として、昨今の顧客からの厳しい要求を自分たちの問題として自覚し、責任をもって解決して行って欲しいと強く要望するようになってきた。

1−1不可欠なマネジメントスタイルの革新

 こうしたトップの問題意識のもとで、幹部職20人を対象に、あらためて彼ら自身に特徴的なマネジメントスタイルを確認する研修を実施した。日常的なマネジメント上の意識や行動の特徴を、次の3つにモデル化し、それぞれ10個の項目について質問した結果、各スタイルの10点満点中の平均得点は以下の通りであった。

M0型マネジメントスタイル(7点)
 経営トップの指示や命令に受け身的に従い、部下にはそのまま伝えているだけで
 ある。
M1型マネジメントスタイル(5点)
 自分も部下も、他部門並みのことがやれていればそれでいいと満足している場合
 が多い。
M5型マネジメントスタイル(3点)
 経営トップの方針や目標をよく理解し、その実現のために部下のやる気やアイデ
 アや行動を積極的に引き出している。

 この結果から、A社の幹部職はトップ依存型であることがはっきりした。それはまた、トップがそれ をよしとしてきた結果でもある。そこで、M5型マネジメントスタイルを目標に、経営トップ層や幹部 職の意識や行動様式を変革し、一体となって顧客からの厳しい要求に問題解決的に挑戦する組織体制をつくることこそが、今後の経営上の一番の戦略的課題であることを確認した。

1−2経営方針と目標の共有化

(1)経営方針の見直し研修

 A社の今後の経営は、当面取引先である大手メーカーからの低コスト化、高品質化、安全等に対する厳しい要求にどれだけ機敏に応えられるかにかかっている。そこで、経営トップ層と幹部職が一緒になって「SWOT分析による各部門方針や目標直し研修」を実施した。
 この研修では、地場企業として長年の取引実績はあるが、昨今の経済環境の変化の中で、A社にとって、何が追い風で何が向かい風かをはっきりさせ、今後の事業展開の方向づけを明確にし、その認識を共有化した。さらに、A社の経営資源の中で、何が強みで何が弱みかをはっきりさせ、今後の事業展開に向けての制約条件と可能性について、認識を共有化した。

(2)事業戦略と目標の見直し研修

 SWOT分析を通して、経済環境が大きく変化する中、A社が生き残っていくために、これまでのような経営方針でいいのか、見直すべき視点を明確にした。そこで次は、その認識を踏まえて、再び経営トップと幹部職が一緒になって「事業戦略、目標をを見直し、共有化する研修」を実施した。
 先ず業部門別に、今後あらためて重視すべき顧客を特定化し、A社が求められているニーズの本質を明確にした。さらに、そのニーズに応え、売り上げや利益目標を実現するために、A社が解決しなければならない基本的な製品やサービス力強化課題は何かを明確にした。

2「6シグマ」の実践支援

(1)6シグマプロジェクトの設定

 先の研修で、幹部職層は経営トップ層と経営方針や目標、さらにその実現のために解決すべき基本的な課題を明確にした。次は、幹部職は各部門の責任者として、先の研修で明確にし、経営トップとも共有することができた基本課題に対して、部下をどのように巻き込み、問題解決的にどう取り組む体制をどうつくるかである。
 これまでの準備を踏まえて、幹部職のリーダーシップのもと、各部門における基本課題解決のための6シグマ活動をどう実践していくかを支援する研修に入った。この研修は、トップダウンの形で、各部問の基本課題を「6シグマプロジェクト」として設 し、幹部職をプロジェクトリーダー(マスターブックベルト)として任命するところから始めた。

(2)6シグマツールの実践的習得

 例えばモトローラーやGEに見る6シグマ活動は、品質改善やコスト低減、安全対策などに関わる業務品質向上のために、「課題の設定、問題発生状況の測定、システムの改善、成果の維持管理」という問題解決サイクルを回す内容になっている。
 A社における当研修では、この一連の問題解決にあたり、W型問題解決フローをベースとした「M5型問題解決技法」を、「6シグマツール」として習得することから入った。
 M5型問題解決技法とは、W型問題解決フローに沿って、問題提起ラウンド→現状把握ラウンド→具体策ラウンド→基本的課題設定ラウンド→最適解決策作成ラウンド→リスク対策ラウンド→実行計画作成ラウンドへとたどる上で、それぞれのラウンドにふさわしい形で、ブレーンストーミング、統計手法、KJ法、KT法、パート等を体系化した、Semi−ExactなST(ソリューションテクノロジー)としてのアナログ情報処理技法である。A社の研修では、実際的な6シグマプロジェクトの中で、当技法を活用し、実際的なアウトプットを出すことを通して、メンバーが技法への習熟度を上げることができる工夫を行った。


3「6シグマ」成功のための評価

(1)トップダウンの重要性の自覚

これまでの日本の製造業の強さは、現場の社員が協力して主体的に目標を決め、会社のため、自分のため、生き甲斐や働きがいを求めてがんばる」というボトムアップ的な目標管理や品質管理小集団活動によるところが大きかった。

 しかし、今日日本製造業の多くは、さらなる低コスト化、高品質化を実現できなければ、生き残っていけない環境にある。「何を目標とすべきか、何を解決すべきか」は、きわめて困難な経営課題であり、その困難さ故に、トップダウンの流れの中で決定されるべきものである。現場社員のボトムアップ的なやる気や生き甲斐や働きがいに期待するようなレベルのものではなくなってきている。

 A社においても、「6シグマプロジェクト」は、経営トップと一体となった幹部職(マスターブラック)のリーダーシップのもと、経営目標や課題のブレークスルーによって決定した。当研修では、メンバーに課せられた課題も経営課題そのものであるという共通の認識が、経営トップと社員の間に存在すべきであることを、再三強調した。

(2) 4つの評価方式の整備   

 こうした認識を共有化した以上、今度はこれらのプロジェクトをどう成功させるかである。社員はまさに生き甲斐や働きがいを持って挑戦し、経営トップは挑戦するにふさわしい環境を整備するという責任がある。つまり、何をどう評価するか、社員にどんな力を身につけてもらいたいのか、6シグマ活動が困難な経営目標や課題への挑戦を期待するものである限り、経営が自らの責任で明示しなければならない。A社では、幹部職層のマスターブラックベルト教育の一環として、評価プロジェクトを設定し、6シグマ成功に向けて、次の「4つの評価表」を作成中である。

「日本版6シグマ」を成功させるための「4つの評価表」

1幹部職の実績を評価する「目標管理評価表」
2一般職の「行動評価表」
3一般職に求められる「テクニカルスキル評価表」
4幹部職の個人や組織の業務能力を引き出す「マネジメント行動評価表」


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